弁理士法人みなとみらい特許事務所が2026年2月より、化学・バイオ分野に特化した「特許明細書の内製化補助サービス」を開始しました。近年の生成AIの進化により、企業における特許明細書作成の内製化への関心が高まっていますが、特に専門性の高い化学・バイオ分野においては、実務上の壁が大きな課題となっています。
本サービスは、企業が作成した特許明細書のドラフトに対し、特許実務慣行に基づいたフィードバックを行い、共に完成させていく伴走型の支援となります。単なる外注や代行ではなく、特許事務所のノウハウを共有しながら企業内の実務能力を高めていく点が特徴です。
対象は化学・バイオ企業の知財部、法務部、新規事業開発部などの担当者で、料金は内製化の進捗度や技術分野の難易度に応じて柔軟に設定されます。例えば、内製化戦略相談で1.5万円から、1案件の明細書完成補助で33万円からといった体系となっています。
生成AIだけでは超えられない実務の壁
生成AIの活用により、特許明細書のドラフト作成自体は以前より取り組みやすい環境が整いつつあります。しかし、化学・バイオ分野においては、実施例の記載方法や実験データの妥当性、サポート要件の充足といった判断に、専門的な実務経験が不可欠とされています。
この領域では、「どの範囲までを比較例で固めるか」「引用文献との差異を際立たせるデータの見せ方」といった実験データの戦略的提示や、「どこまで広いクレームが許容されるか」という上位概念化のさじ加減など、審査官のロジックに耐えうる明細書作成のための実務的な判断が求められます。
このような背景から、内製化を志向しながらも品質面の不安から取り組みが停滞したり、社内作成の明細書で出願を行った結果、権利化できないといった事態が生じる可能性があります。本サービスは、こうした「移行期」の壁を埋めるための選択肢として位置づけられそうです。
法人向けITにおける専門知識の内製化という課題
今回のサービスは、企業におけるAI活用と専門業務の関係性を考える上で、興味深い視点を提供していると言えます。
生成AIの進化により、多くの企業で定型的な業務の効率化が進んでいますが、高度な専門知識が求められる領域では、AIツールの出力をそのまま実務に適用することの難しさが顕在化しています。特許明細書作成のような分野では、文章生成の技術的な側面だけでなく、法的要件や審査実務への理解が重要になります。
このような状況において、外部の専門家による完全な代行と、企業内での完全な内製化の間に、「ノウハウを共有しながら段階的に内製化を進める」という中間的なアプローチが求められていると捉えられそうです。
法人向けITやSaaSの文脈で見ると、ツール導入後の定着支援やカスタマーサクセスの重要性が語られることが多くなっていますが、本サービスはより踏み込んだ形で、専門知識そのものの移転を支援するモデルと言えます。単なる業務の効率化ではなく、組織の能力構築を目指す点で、今後の専門サービスの在り方を示唆しているとも受け取れます。
内製化を検討する際の考慮点
企業が特許業務の内製化を検討する際には、コスト削減という短期的な視点だけでなく、組織内に蓄積される知見の価値を長期的に評価していく必要があります。
特に化学・バイオ分野のような専門性の高い領域では、属人化していたスキルを組織の標準として定着させるプロセスに、相応の時間と投資が必要になると考えられます。本サービスのような伴走型の支援は、そうした移行期における品質の安定化や、社内でのドラフト品質のばらつき解消に寄与する可能性があります。
一方で、内製化を進める際には、どこまでを社内で担い、どこから外部の専門家に依頼するのかという線引きを、事業特性や出願件数、技術分野の特性に応じて見極めていくことも重要です。完全な内製化が常に最適解とは限らず、状況に応じた柔軟な体制構築が求められるでしょう。
まとめ:生成AI時代における専門業務の進化
生成AIの進化は、多くの業務領域で効率化をもたらす一方で、専門知識が求められる領域においては、その限界も明らかにしています。今回発表された特許明細書の内製化補助サービスは、AI活用と専門家のノウハウを組み合わせた新しい支援モデルの一例と言えます。
今後、同様のアプローチが他の専門領域でも展開される可能性があります。企業においては、生成AIをはじめとするITツールの導入効果を最大化するために、どのような形で外部の専門知識を取り入れ、組織能力として定着させていくかという視点が、ますます重要になっていくと考えられます。
化学・バイオ分野に限らず、法人向けITの活用において、ツール導入と人材育成、外部リソースの活用をどう組み合わせていくかは、引き続き注目すべきテーマとなりそうです。

