今回取り上げるのは、従業員エンゲージメント領域のクラウド、人材紹介、ALT配置、IR支援、キャリアスクールなどを展開する人的資本経営支援企業、株式会社リンクアンドモチベーションです。2025年12月期は売上収益が415億22百万円と前年同期比10.9%増となり、過去最高の売上収益を更新しました。一方で、営業利益は42億4百万円と前年同期比23.4%減、親会社の所有者に帰属する当期利益は16億21百万円と56.1%減となっています。
株式会社リンクアンドモチベーションをいま見る意味は、人的資本経営の需要拡大を追い風に、クラウド型サービスと人材関連事業を伸ばしながら、M&Aと事業再編を同時に進めているからです。特に「モチベーションクラウド」を軸としたストック型モデルの拡大は、IT導入を検討する企業担当者にとっても参考になります。
この記事では、市場背景、業績推移、直近決算の重要ポイント、事業構造、そしてITトレンド編集部としての考察を整理します。IT・業務視点で見ると、株式会社リンクアンドモチベーションは単なる人材会社ではなく、組織診断、改善、採用、育成までをデータとクラウドでつなぐ“人的資本の業務基盤企業”として理解するのが適切です。
1. 市場背景と業界構造
株式会社リンクアンドモチベーションが属する市場は、人的資本経営、従業員エンゲージメント、採用・育成、人材配置、教育支援といった複数の領域にまたがっています。企業が変化に適応するための人的資本経営推進ニーズ、具体的には従業員エンゲージメント向上や人材確保・育成ニーズが高まっていることが示されています。さらに、AIの技術的発展が進む中で、優秀な人材の獲得競争は一層激しくなるとされています。
市場拡大の背景には、労働力人口の減少、ビジネスのソフト化、ワークモチベーションの多様化があります。人が採れない、定着しない、育たないという課題に対して、企業は人事制度だけでなく、データに基づいた診断や改善、採用DX、学習支援まで求めるようになっています。ここでクラウド型の組織診断や採用支援ツールが重要になります。
この市場の業界構造は、単純なSaaS市場ではありません。人事コンサルティング、人材紹介、学校向け人材配置、IR支援、学習サービスなどが重なり合っています。その中で、株式会社リンクアンドモチベーションは、従業員エンゲージメント市場で「モチベーションクラウド エンゲージメント」が9年連続1位、ALT配置事業で民間企業トップシェア、IR支援でも大手・中小上場企業群それぞれに強いシェアを持つとされています。つまり、単一サービスの会社ではなく、人的資本関連の複数領域でポジションを築いている会社です。
この業界でIT化・データ化・自動化が影響する場所は明確です。組織診断の可視化、従業員サーベイ、採用管理、候補者評価、学習進捗、人材紹介のマッチング、IR支援のオンライン化などです。株式会社リンクアンドモチベーションは、そうしたデジタル化の影響を受ける側ではなく、むしろそれを推進する側にいます。
2. 過去数年の業績推移
業績を見ると、2025年12月期の売上収益は415億22百万円で、前年の374億58百万円から10.9%増加しています。2026年12月期予想も467億円で12.5%増が見込まれており、売上成長自体は続いています。背景には、キャリアスクール事業以外の伸長、特にコンサル・クラウド事業と人材紹介事業の拡大があります。
一方で、利益は2024年12月期の営業利益54億85百万円から、2025年12月期は42億4百万円へ減少しました。営業利益率も14.6%から10.1%へ低下しています。税引前利益は42億23百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は16億21百万円で、最終利益は56.1%減です。売上は伸びているのに利益が落ちている構図です。
その理由としてキャリアスクール事業における構造改革推進に伴い、のれん全額を減損損失として計上したことです。つまり、利益減少の全てが本業悪化によるものではなく、事業の選別と再構築を進めた結果でもあります。ここは一過性要因と構造変化を分けて見るべきポイントです。
セグメント別に見ると、組織開発Divisionは168億45百万円で前年比113.4%、マッチングDivisionは193億円で114.7%と伸びています。個人開発Divisionは60億83百万円で94.7%と減収でした。これは、会社全体として「組織支援・人材マッチングが伸び、個人向け学習関連は再編中」という姿を示しています。
IT視点で見ると、この業績推移は重要です。組織開発Divisionでは「モチベーションクラウド」を中心にストック型モデルへの転換が進み、マッチングDivisionではOpenWorkなどデータベース型・プラットフォーム型の特性を持つ事業が伸びています。つまり、収益構造は徐々に“案件型”から“継続課金・継続利用型”へシフトしています。
3. 直近決算の重要ポイント
今回の決算で会社側が最も強調しているのは、人的資本経営推進の流れを捉えて、コンサル・クラウド事業と人材紹介事業が計画通り伸び、売上総利益を押し上げたことです。とくに「モチベーションクラウド」の2025年12月単月月会費売上は6億2,738万2千円で前年比121.6%と大きく成長しています。クラウドの継続課金が加速していることを示す数字です。
一方で、利益項目は減損損失計上の影響により、前年実績や事前予想を下回りました。ここで大事なのは、売上収益と売上総利益は予想を上回っている点です。つまり、本業の需要は強い一方で、事業再編コストが利益を押し下げた決算です。
KPI進捗も明確です。「モチベーションクラウド」の納品数は1,370件、OpenWorkの累計Web履歴書登録数は約165万件です。SaaSとしての拡大と、人材データベースとしての厚みの両方が積み上がっています。
大型トピックスとしては、Unipos株式会社の完全子会社化、ジャパンストラテジックファイナンス株式会社とイー・アソシエイツ株式会社の完全子会社化があります。これは、ピアボーナス、IR支援、大手上場企業支援といった周辺領域へ事業を広げる動きです。単に規模拡大ではなく、「人的資本」「従業員体験」「投資家コミュニケーション」といった経営テーマを一体で支援する方向に近づいています。
新規事業・新サービスでは、「モチベーションクラウド エントリーマネジメント」を2026年4月にリリース予定です。採用支援のクラウド化であり、既存の組織診断・エンゲージメント支援と採用プロセスがつながる意味を持ちます。また、ZENKIGENとの提携によりAIを活用した採用DXサービス「harutaka」と連携する点も、採用業務のデジタル化に直結します。
4. 事業構造と収益モデルの解説
株式会社リンクアンドモチベーションの事業は、大きく組織開発、個人開発、マッチングの三つに分かれています。主力商品は「モチベーションクラウド」、組織人事コンサルティング、IR支援、人材紹介、ALT配置、OpenWorkなどです。ここから見えてくるのは、「人」に関わる業務プロセスを分断せずに扱っていることです。企業の採用、配属、育成、エンゲージメント、評価、さらには投資家向け情報発信まで、組織運営の周辺を広くカバーしています。
収益モデルとして重要なのは、クラウド化・ストック化の進行です。「モチベーションクラウド」の月額課金、IR支援での動画配信や決算説明会支援など、単発案件ではなく継続利用を前提としたモデルが拡大しています。これは、導入後の改善支援や継続的なデータ蓄積と相性が良い構造です。
業務プロセスとの接点でいえば、「モチベーションクラウド」は人事や経営企画が使う組織診断・改善基盤です。採用クラウドは人事の採用オペレーションに接続します。OpenWorkは採用広報・候補者接点に関わり、ALT配置は教育現場の人材配置業務、IR支援は上場企業の経営企画・IR部門の業務を支えます。つまり同社は、ひとつの部門だけではなく、人事、経営、教育、IRと複数の業務プロセスをまたぐ会社です。
IT投資との関係では、株式会社リンクアンドモチベーションは“人材サービス会社”でありながら、実態としてはデータとクラウドを軸に業務を標準化し、継続利用を促す方向へ進んでいます。この点は、単発コンサルや単発紹介に比べて、IT導入との親和性が高いと言えます。
5. 業界の注目ポイント
ポイント1:人的資本経営は「人事制度」ではなく「データ運用」の領域に入っている
エンゲージメント測定、採用管理、組織診断、育成進捗の可視化は、すべてデータ基盤が必要です。この論点はIT導入で改善可能であり、同社のクラウドがまさに接続する部分です。
ポイント2:採用競争の激化は、採用DXとマッチング精度向上を求める
AIの発展で人材の希少性が増すほど、採用は量より質の勝負になります。候補者管理や面接プロセスの効率化、企業とのフィットの可視化は、IT導入で改善可能です。
ポイント3:成長事業と不採算事業を分けて見る必要がある
今回の利益減は、のれん減損という構造改革の影響が大きい決算でした。これはIT導入で直接改善する話ではありませんが、収益モデルをストック型へ転換する過程で起こりやすい論点です。
6. ITトレンド編集部の考察
株式会社リンクアンドモチベーションは、人的資本経営という抽象的なテーマを、実際の業務やデータに落としている点が最大の特徴です。単なる人材会社ではなく、「組織の状態を測る」「課題を特定する」「改善を伴走する」「採用や配置にもつなげる」という一連の流れを持っています。IT導入を検討する企業担当者にとっては、アンケートツールや人事評価ツール単体ではなく、組織運営全体の一部として捉える必要があるサービス群です。
どんな企業に向いているかという観点では、まず従業員規模が一定以上あり、組織課題を定量的に把握したい企業です。大手企業から中堅・中小企業まで対象は広いですが、特に組織の見える化と継続改善を本気で進めたい企業との相性が良いと考えられます。また、採用・育成・定着のどこか一つではなく、全体をつなげて考えたい企業にも向いています。
IT投資余地という観点では、同社自身がクラウド化・ストック化を急ピッチで進めており、今後の成長余地は大きいです。とくに採用支援クラウドやAI連携サービスは、既存のエンゲージメント領域とつながることで、顧客の人事業務全体に入り込む余地があります。一方で、離職率や事業再編リスクは、自社の持続成長上の課題として残っています。
比較検討時のポジションとしては、株式会社リンクアンドモチベーションは「人事SaaS」単体の競合というより、「診断から変革までを一体で支援する」点で差別化されています。ツールだけ欲しい企業には重く見える可能性がある一方、改善まで伴走してほしい企業には強い選択肢になります。
7. まとめ
株式会社リンクアンドモチベーションを一言で表すなら、人的資本経営を“診断から変革まで”クラウドと人材サービスでつなぐ企業です。
2025年12月期は、売上収益415億22百万円で過去最高を更新しました。一方で、営業利益42億4百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益16億21百万円と利益面は減少しています。ただしその主因はキャリアスクール事業の構造改革に伴う減損であり、本業のコンサル・クラウド、人材紹介、ALT配置などは伸びています。
IT・業務観点で見ると、この会社の本質は、人事や経営の感覚的な判断を、データと継続支援に置き換えることにあります。エンゲージメント、採用、育成、配置、IR支援まで含めて業務基盤を再設計したい企業にとって、比較検討価値の高い存在と言えます。

