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2026年03月31日

SmartHRがSUNITED株式会社をグループ化——「AI BPaaS」で情シス人材不足に切り込む

SmartHRがSUNITED株式会社をグループ化——「AI BPaaS」で情シス人材不足に切り込む

SmartHRがSUNITED株式会社をグループ化——「AI BPaaS」で情シス人材不足に切り込む(写真はイメージ)

株式会社SmartHRは2026年3月27日、情報システム部門のBPO(業務代行)を主軸とするSUNITED株式会社の全株式を取得し、グループ会社化を完了したと発表しました。SUNITEDはこれまで興和株式会社の100%子会社として、中小企業から大規模組織まで幅広い顧客に対して情シス領域の実務支援を提供してきた企業です。

今回の買収が注目されるのは、単なる事業拡大の一手ではなく、SmartHRが掲げる「AI BPaaS(AIを活用した次世代型業務アウトソーシング)」構想の具体化に向けた布石である点にあります。SaaSとAI技術を核に成長してきたSmartHRが、ここにきてBPOの実行力を手中に収めた意味は、業界全体に少なくない波紋を広げそうです。

DX推進が叫ばれて久しい一方、現場の運用を担うIT人材の不足は多くの企業にとって依然として切実な課題となっています。テクノロジーを導入したものの、定着・活用まで至らないケースは珍しくなく、ソフトウェア提供だけでは解決しきれない壁が存在します。SmartHRとSUNITEDの組み合わせは、まさにその壁を越えようとする試みとして受け取れます。

DX格差という構造問題と、SmartHRが描く解決策

日本企業のDX投資は年々増加傾向にあります。しかしながら、その恩恵を十分に享受できている企業と、導入だけで終わっている企業との間には、いわば「DX格差」とも呼べる分断が生じていると考えられます。その分断を生む根本的な原因のひとつが、情シス(情報システム部門)人材の不足です。

ITエンジニアやシステム管理の専門人材を自社で確保できる大手企業と、そうした余力のない中小・中堅企業との差は拡大する一方です。クラウドサービスやSaaSツールの導入ハードルが下がった反面、それらを適切に運用・改善し続ける人材がいなければ、投資対効果は著しく低下します。

SmartHRはこの課題を「テクノロジーへの公平なアクセス」という視点で捉えています。同社が掲げる「誰もがフェアにテクノロジーへアクセスできる社会の実現」というビジョンは、単にソフトウェアを提供するだけでは達成しえないという認識が背景にあります。ツールを使いこなすための人的・運用的な支援を一体で届けることが必要だという判断が、今回のM&Aの根底にある考え方と捉えられそうです。

SUNITEDは2019年の設立以来、情シスBPOに特化したサービス展開を続けており、取引先企業100社以上(上場企業多数)、顧客リピート率・案件継続率85%以上という実績を積み上げてきました。業務システムの開発・運用・効率化・リプレイスにとどまらず、ISMSなどの認証取得支援や採用・ブランディング支援まで手がける多角的なオペレーション力が特徴です。

SmartHRにとって、こうした実行力と現場知見を持つ組織をグループに取り込むことは、SaaS企業として越えにくかった「ラストワンマイル」の支援領域に踏み込む動きとして見ることができます。

既存のBPO・SaaSサービスと何が違うのか

情シスBPOの市場自体は新しいものではなく、すでに複数のプレイヤーが参入しています。では今回のSmartHR×SUNITEDの組み合わせは、既存のサービスとどこが異なるのでしょうか。以下の観点から整理できます。

①ソフトウェアとBPOの一体提供

従来のBPO事業者は、業務の代行・効率化を担うものの、自社のSaaSプロダクトを持つケースは多くありません。一方、SaaSベンダーはツールの提供はできても、現場運用のオペレーションには踏み込みにくい構造があります。SmartHRは人事労務SaaSのリーディングカンパニーとして強固なプロダクト基盤を持ちながら、今回BPO実行力も備えることになります。プロダクトと運用支援が同一グループ内に揃う体制は、競合他社との明確な差別化軸になりえます。

②「AI BPaaS」という新しいフレーム

同社が今回掲げた「AI BPaaS(AI Business Process as a Service)」という概念は、従来の人力中心のBPOに対し、AIを業務プロセスに組み込んだ次世代型アウトソーシングを指しています。具体的な機能・サービス詳細は現時点では明らかになっていませんが、SmartHRのSaaS・AI技術とSUNITEDの現場運用力を組み合わせることで、自動化と人的サポートを使い分けるハイブリッド型の業務支援モデルが想定されます。

③対象規模の広さ

SUNITEDはもともと「中小企業から大規模組織まで」を対象に支援を提供しており、SmartHR自体も中小企業から大企業まで幅広い顧客層を持ちます。両者の組み合わせにより、企業規模を問わない包括的なDX支援の提供が可能になると考えられます。特にIT専任担当者を置けない中小企業にとっては、情シスBPOとHRシステムが一体で提供されることの価値は大きいと受け取れます。

④既存競合との比較軸

情シスBPO市場では、NTTデータやNECをはじめとした大手SIer系のBPOサービス、またアウトソーシングテクノロジーやパーソルグループなどの人材×BPO系サービスが存在しています。これらと比較した場合、SmartHR×SUNITEDの特徴は「HRテック特化のSaaSと連携した情シスBPO」という点にあります。人事・労務・タレントマネジメントのデータを持つSmartHRと情シスBPOが連携することで、人事系システムの導入・運用支援において独自のポジションを確立できる可能性があります。

導入・検討時に見るべきポイント

SmartHRグループのサービスやSUNITEDのBPO活用を検討するIT担当者・情シス担当者の観点から、評価・選定時に確認すべき点を整理します。

提供サービスの具体的なスコープ

「AI BPaaS」の詳細については、今後の発表を待つ必要があります。現時点では情シスBPOとSmartHRのSaaSがどのような形で統合・連携されるのか、サービスメニューや契約形態などは明らかではありません。既存のSmartHRユーザーがSUNITEDのBPOサービスを利用できるようになるのか、あるいは新たなパッケージとして提供されるのかを確認することが重要です。

自社のIT人材状況との照合

情シスBPOの活用が有効なのは、専任の情シス担当者がいない、または人員が不足しているケースです。社内に一定のIT知見がある場合はスポット的な活用に向いており、ほぼ全業務を外部委託したい場合はフルアウトソーシング型が適しています。SUNITEDはリピート率85%以上の実績を持つ点で継続的な伴走支援が期待できますが、自社の現状課題とサービスの対応範囲が合致しているかを丁寧に確認する必要があります。

既存ツール・システムとの連携性

SmartHR以外の人事・労務システムや、社内で使用しているSaaSツールとの連携がどこまで想定されているかは、導入の可否を左右する重要な要素です。情シスBPOとして運用を委託する場合、対象システムの範囲や、移行・連携時のサポート体制についても事前に確認しておく必要があります。

コスト構造と費用対効果

BPOサービスの費用は、委託範囲・業務量・対応人員などによって大きく異なります。内製コストとの比較や、情シス人材採用との代替検討も含めて、自社のコスト構造に見合うかどうかを定量的に評価することが求められます。初期コストだけでなく、月次・年次の継続コストや契約変更の柔軟性なども確認のポイントとなります。

サポート体制と対応品質

SUNITEDは「ご担当者さまに寄り添った伴走支援」を強みとして掲げており、担当者との密なコミュニケーションを重視するスタンスが見受けられます。一方、企業規模が拡大したり、グループ体制の変化によってサービス品質が変動するリスクも念頭に置いておく必要があります。導入後のエスカレーションフローやSLA(サービスレベルアグリーメント)の有無も確認しておくと安心です。

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「ソフトウェア企業」の次のステージへ

今回のSUNITED株式会社のグループ会社化は、SmartHRにとってソフトウェア企業という従来の枠組みを超えた、事業モデルの転換点となる可能性があります。人事労務SaaSのリーダーとして国内市場に根を張ってきた同社が、BPOという実務支援の領域に足を踏み入れたことは、「テクノロジーを届けるだけでなく、使いこなせる環境ごと提供する」という方向性の表れと考えられます。

DXの本質的な成果を生み出すためには、ツールの選定と同等かそれ以上に、現場への定着・運用改善のサイクルが重要であることが、多くの企業の経験から明らかになっています。その観点からすると、SaaSとBPOの垂直統合は、時代のニーズに応えた合理的な判断とも受け取れます。

SmartHRは今回のグループ化を「AI BPaaS確立への第一歩」と位置づけており、今後もM&Aを通じた事業拡張を視野に入れています。SUNITEDとの連携がどのようなサービスとして具体化されるか、またAIをどの形で業務プロセスに組み込んでいくかは、今後の注目点のひとつとなりそうです。IT人材不足という構造的な課題を背景に、情シス支援市場の競争環境がどのように変化していくか、引き続き動向を注視していく価値があります。

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