株式会社野村総合研究所(NRI)は、政策提言や戦略コンサルティングから、システム開発、運用サービス、データセンター運営までを一貫して手がける総合ITサービス企業です。事業はコンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスの4セグメントで構成されています。
2027年3月期第1四半期の連結業績は、売上収益2,104億55百万円(前年同期比+7.5%)、営業利益417億11百万円(同+12.0%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益292億14百万円(同+12.4%)となりました。金融ITソリューションとIT基盤サービスがけん引し、増収増益で今期をスタートしています。
営業利益率は19.8%と前年同期から0.8ポイント改善しました。国内のシステム開発案件と運用サービスの増加が収益性を押し上げた形です。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
株式会社野村総合研究所(証券コード:4307)の決算解説
今期スタートを取り巻く市場環境
当第1四半期の世界経済は、物価上昇が継続し、金融資本市場の急速な変動や中東情勢の緊迫化など不確実な状況が続きました。一方で日本経済は、各種政策により雇用・所得環境が改善するなか、緩やかな回復基調をたどっています。
情報システム投資に目を向けると、既存システムのモダナイゼーションやデジタルセキュリティ領域への投資需要が堅調に推移しました。加えて、AI実装による業務プロセスの改善から、ビジネスモデルやサプライチェーンそのものを変革する段階へと急速に進展しています。同社はこの流れをAX(AIトランスフォーメーション)関連需要の増加として捉えています。
ただし、物価上昇の継続に加え、国内金利の上昇や地政学リスクの高まりも意識されます。景気の先行きや企業業績の変調によっては、IT投資が抑制される可能性も残ると見られます。
業績推移
詳しい数値は決算短信本文でも確認できます。
株式会社野村総合研究所 2027年3月期 第1四半期決算短信(PDF)
前年同期にあたる2026年3月期第1四半期の売上収益は1,957億70百万円でした。今期はそこから146億85百万円の増収となり、2,104億55百万円に達しています。営業利益も前年同期の372億46百万円から44億64百万円積み増しました。
収益構造を分解すると、売上原価は1,317億42百万円(前年同期比6.1%増)にとどまりました。売上総利益は787億13百万円(同10.0%増)と収益を上回る伸びを示しています。販売費及び一般管理費は376億76百万円(同8.1%増)でした。
通期では売上収益8,500億円、営業利益1,750億円、親会社の所有者に帰属する当期利益1,190億円が予想されています。第1四半期時点の営業利益は通期予想に対して約24%の進捗であり、おおむね計画線上の立ち上がりといえます。
直近決算の重要ポイント
今回の決算で最も注目したいのは、増収率7.5%に対して営業利益が12.0%伸びた点です。増収以上に利益が伸びる構造は、案件構成の改善と運用サービスの積み上げが効いていることを示しています。EBITDAマージンも26.0%と前年同期から0.6ポイント上昇しました。
海外売上収益は281億51百万円(前年同期比2.3%増)となりました。ただし全体の伸びが上回ったため、海外売上収益比率は13.4%と前年同期から0.7ポイント低下しています。成長の主役が国内事業であったことが読み取れます。
資本政策も大きな動きがありました。2026年4月24日の取締役会で決議した自己株式取得により、当第1四半期に14,707,100株・699億99百万円を取得しています。さらに6月30日には20,044,102株の消却手続きが完了しました。資本効率の向上を明確に意識した動きと考えられます。
今期の重点領域と収益構造
同社は2026年4月、長期経営ビジョン「NRI Group Vision 2030」の後半3か年にあたる中期経営計画(2026-2028)を策定しました。成長領域として掲げたのは、AIによるビジネス変革、デジタルセキュリティサービスの拡充、社会共創サービスの拡大の3つです。
セグメント別に見ると、金融ITソリューションの売上収益は1,205億17百万円(前年同期比8.9%増)、営業利益は207億42百万円(同18.9%増)と全社をけん引しました。良好な受注環境と運用サービスの増加が収益性を高めています。IT基盤サービスも売上収益576億80百万円(同10.3%増)、営業利益110億96百万円(同24.8%増)と高い伸びを示しました。
一方、コンサルティングは売上収益150億52百万円(同4.4%増)ながら、営業利益は29億1百万円(同8.7%減)と減益でした。公共案件の受注獲得が遅れ、稼働率が低下したことが要因です。産業ITソリューションも売上収益587億80百万円(同3.8%増)に対し営業利益67億11百万円(同10.9%減)となり、新規案件の立ち上がり段階にあることが利益を圧迫しています。
業界の注目ポイント
AX需要がIT投資の性格を変えつつある
同社は今期、AI活用が業務プロセスの改善段階から、ビジネスモデルやサプライチェーンの変革段階へ移行していると指摘しています。これは案件の単価や期間、求められるスキルセットが変わることを意味します。コンサルティングと実装力を一体で提供できる事業者にとっては、追い風になりやすい環境です。
実際にコンサルティングセグメントでは、国内でAIコンサルティング案件の受注が増加しました。ただし利益率は低下しており、需要の獲得と稼働率の維持を両立させる難しさもうかがえます。案件ポートフォリオの組み方が今後の収益性を左右すると考えられます。
金融業界の構造変化がシステム需要を生む
金融業界では業界再編や異業種からの新規参入、デジタルアセット市場の拡大が進んでいます。人口減少に伴う国内市場の縮小もあり、金融機関は経営効率の追求と次世代ビジネスモデルへの転換を同時に迫られています。
共同利用型システムやBPOサービスは、こうした環境で相対的に選ばれやすい選択肢です。今期の金融ITソリューションの二桁増益は、その需要が実際の収益に結びついていることを示しています。マイナンバーや社会保障分野のソーシャルDX案件も、中期の成長ドライバーになると見られます。
セキュリティ運用の高度化がIT基盤ビジネスを押し上げる
マルチクラウドの普及により、システム基盤は多様化・複雑化しています。安定運用の難易度が上がるほど、専門事業者に運用を委ねる動機は強まります。統合運用管理の分野で外部委託が広がる背景にも、同じ構造があります。
加えて、サイバー脅威の巧妙化を受けてセキュリティ対策の重要性が一段と高まっています。同社ではデジタルセキュリティ事業とデジタルワークプレイス事業が好調に推移し、IT基盤サービスの二桁増収につながりました。運用・セキュリティ領域は景気変動の影響を受けにくいストック性を持つ点でも注目されます。
ITトレンド編集部の考察
今回の第1四半期は、増収率を上回る利益成長という理想的な形で着地しました。特に金融ITソリューションとIT基盤サービスという二本柱がそろって二桁増益となった点は、収益構造の安定感を裏づけています。運用サービスの積み上げが利益率を押し上げる構図は、今後も継続すると考えられます。
一方で、コンサルティングと産業ITソリューションの減益は見過ごせません。公共案件の受注遅れや新規案件の立ち上がり負担は一時的な要因とも読めますが、AI関連の先行投資が利益を圧迫している側面もあると見られます。この2セグメントが下期にかけて回復するかが、通期計画達成の鍵になりそうです。
資本政策の面では、699億99百万円規模の自己株式取得と2,000万株超の消却が実施されました。営業キャッシュ・フローの厚みを背景に、株主還元と成長投資を並行して進める姿勢が明確です。IT投資の需要が続く限り、この両立は維持されると考えられます。
まとめ
- 2027年3月期第1四半期の売上収益は2,104億55百万円(前年同期比+7.5%)
- 営業利益は417億11百万円(同+12.0%)、営業利益率は19.8%と0.8ポイント改善
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益は292億14百万円(同+12.4%)
- 金融ITソリューションは営業利益207億42百万円(同18.9%増)と全社をけん引
- IT基盤サービスは営業利益110億96百万円(同24.8%増)と高い伸び
- コンサルティングと産業ITソリューションは増収ながら減益
- 通期予想は売上収益8,500億円、営業利益1,750億円、当期利益1,190億円
- 予想年間配当は84.0円、当第1四半期に699億99百万円の自己株式を取得
ITトレンド編集部
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