アイティメディア株式会社(証券コード:2148)は、テクノロジー領域の情報ニーズに応えるメディア事業を展開する企業です。企業のIT活用や購買を支援する「BtoBメディア事業」と、コンシューマー向け情報を提供する「BtoCメディア事業」の2つのセグメントを軸に、@ITやITmedia NEWS、ねとらぼなど多数の専門メディアを運営しています。
2026年3月期通期(IFRS)の業績は、売上収益83億11百万円(前期比+2.6%)と増収を確保した一方、営業利益17億65百万円(同-13.0%)、当期利益11億91百万円(同-20.4%)と減益となりました。BtoBメディア事業の伸び悩みをBtoCメディア事業の増収が補う構図の中、成長投資に伴うコスト増が利益を圧迫した1年です。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
アイティメディア株式会社(証券コード:2148)の決算解説
1. 2026年3月期を振り返る市場・業界の変化
2026年3月期のIT・デジタルマーケティング市場では、AI検索サービスの普及が既存のメディアビジネスに大きな変化をもたらしました。検索エンジンからの流入数が減少する一方、AI検索サービス「Perplexity」との提携など、新たな流入チャネルの開拓が業界共通の課題として浮上しています。アイティメディアもこうした環境変化への対応を迫られた1年だったと見られます。
一方で、企業のDX推進や生成AI活用への関心は高まり続けており、テクノロジー市場そのものは成長を継続しています。メディア市場が、より大きなデジタルマーケティング市場の一部として取り込まれつつある動きも進んでおり、これまでとは異なる競争環境と成長機会が同時に生まれている状況です。
国内SaaS領域では、顧客企業のマーケティング活動の鈍化がリードジェネレーション収益やデジタルイベント収益に影響を及ぼしました。他方、動画プラットフォームの開設やデータ管理基盤の強化など、コンテンツと顧客接点の多様化に向けた投資が業界内で活発化した1年でもありました。
2. 業績推移
詳しい数値は決算短信本文でも確認できます。
アイティメディア株式会社 2026年3月期 通期決算短信(PDF)
2026年3月期の売上収益は83億11百万円となり、前期比+2.6%の増収となりました。BtoBメディア事業は66億19百万円(同-0.2%)とほぼ横ばいにとどまった一方、BtoCメディア事業は16億91百万円(同+15.1%)と大きく伸び、全体の増収を牽引しました。
営業利益は17億65百万円(前期比-13.0%)、当期利益は11億91百万円(同-20.4%)といずれも減益となりました。CMS(コンテンツマネジメントシステム)やデータ基盤強化への投資、子会社発注ナビ株式会社における広告宣伝費の投入、M&A関連のアドバイザリー費用の計上などが総コストを押し上げた結果です。
財務面では、総資産105億46百万円、純資産86億64百万円で、自己資本比率は82.2%と高い水準を維持しています。営業キャッシュフローは13億66百万円のプラス、投資キャッシュフローは54百万円のプラス、財務キャッシュフローは20億46百万円の支出となりました。EPSは61.34円です。
3. 直近決算の重要ポイント
今回の決算で最も注目すべき点は、BtoBメディア事業とBtoCメディア事業で明暗が分かれたことです。BtoBメディア事業は新たにピイ.ピイ.コミュニケーションズが加わったことで予約型広告&ブランドソリューション収益は増収となったものの、国内SaaS領域の顧客のマーケティング活動鈍化を背景にデジタルイベント収益やリードジェン収益が減収しました。
一方、BtoCメディア事業は運用型広告収益が伸び、前期比+15.1%と好調を維持しています。子会社の発注ナビ株式会社も成長を継続しており、情報システム開発会社の検索・比較サービスとして加盟社数を拡大している点が注目されます。
配当については、当期の年間配当は100.0円だった一方、翌期の配当予想は50.0円と半減しています。当期利益の減少に加え、M&Aを中心とした投資積極化の方針が、配当予想の見直しに影響したと見られます。
4. 通期実績が示す収益モデルの現在地
アイティメディアの収益モデルは、BtoBメディア事業における「メディア売上」「子会社売上」を中心とした広告・リードジェネレーション収益と、BtoCメディア事業における運用型広告収益の2本柱で構成されています。今期はBtoBメディア事業の伸び悩みをBtoCメディア事業の成長がカバーする構図となり、事業ポートフォリオの分散が業績の下支えになったと見られます。
成長戦略としては、M&Aを中心とした投資の積極化が明確に打ち出されています。中期で50億円から80億円を投資枠として設定しており、ピイ.ピイ.コミュニケーションズの完全子会社化に続き、2026年4月にはマジセミ株式会社も完全子会社化しました。デジタルイベント事業の強化を通じて、中期的な成長基盤の拡大を図る方針です。
翌期の業績予想は、売上収益92億円(前期比+10.7%)、営業利益20億円(同+13.9%)、当期利益13億80百万円(同+15.8%)と、増収増益への回復が見込まれています。新たに連結子会社となった企業群の貢献に加え、既存BtoBメディア事業の底打ちが業績回復のカギになると見られます。
5. 業界の注目ポイント
AI検索の普及がもたらすメディアビジネスの構造変化
AI検索サービスの普及により、従来型の検索エンジン経由の流入に依存してきたメディアビジネスは構造変化への対応を迫られています。アイティメディアでも、BtoBメディアの一部コンテンツにおいて検索エンジンからの流入数が減少しており、コンテンツ最適化や会員基盤を生かしたサービス強化が急務となっています。
この変化に対応する動きとして、AI検索サービス「Perplexity」との提携など、新たな流入チャネルの開拓に注力している点は注目に値します。AI時代のメディア戦略として、検索流入への依存度を下げつつ会員基盤や独自コンテンツの価値を高める取り組みが、今後の業界標準になっていくと見られます。
M&Aを軸にした成長投資と収益モデルの多様化
アイティメディアは中期で50億円から80億円という明確な投資枠を設定し、M&Aを中心とした成長戦略を推進しています。ピイ.ピイ.コミュニケーションズによるリサーチ・アドバイザリー領域への進出、マジセミ株式会社の完全子会社化によるデジタルイベント事業の強化など、既存メディア事業の枠を超えた収益モデルの多様化が進んでいます。
こうしたM&A戦略は、テクノロジー市場の成長を取り込みながら、メディア単体では難しい成長スピードを実現する狙いがあると見られます。2029年度にEPS140円という中期目標を掲げており、投資の実行力と統合後の収益化が今後の焦点になります。
子会社「発注ナビ」の成長と広告宣伝費投入の効果
情報システム開発会社の検索・比較サービスを提供する子会社の発注ナビ株式会社は、加盟社数を拡大しながら大きな成長を継続しています。広告宣伝費を積極的に投入することで成長を加速させる戦略を取っており、今期の利益面での負担要因となった一方、中長期的な成長ドライバーとして期待される事業です。
情報システム開発の発注先探しに悩む企業ニーズは根強く、比較・検索サービスへの需要は今後も底堅く推移すると見られます。発注ナビの影響力拡大が、アイティメディアグループ全体の収益基盤の多様化にどこまで寄与するか、注目されるポイントです。
6. ITトレンド編集部の考察
アイティメディアの2026年3月期は、増収を確保しながらも減益という決算内容となりました。BtoBメディア事業がAI検索の普及という構造変化への対応に追われる一方、BtoCメディア事業と子会社の発注ナビが成長を支えた1年だったと評価できます。
特に注目したいのは、M&Aを軸にした成長投資への積極姿勢です。ピイ.ピイ.コミュニケーションズやマジセミ株式会社の完全子会社化は、メディア単体の成長に頼らない収益モデルの多様化として評価できる一方、投資に伴うコスト増が短期的な利益率を押し下げている点は今後も注視が必要です。
翌期は増収増益への回復が予想されており、新たに加わった子会社群の貢献が実際にどこまで業績に反映されるかが焦点になります。配当予想が半減している点も踏まえ、成長投資と株主還元のバランスをどう取っていくのか、今後の経営判断が注目されます。
7. まとめ
- 2026年3月期通期:売上収益83億11百万円(前期比+2.6%)、営業利益17億65百万円(同-13.0%)、当期利益11億91百万円(同-20.4%)
- BtoBメディア事業は66億19百万円(同-0.2%)、BtoCメディア事業は16億91百万円(同+15.1%)と明暗が分かれる
- AI検索の普及に伴う検索流入の減少に対し、Perplexityとの提携などで対応を強化
- ピイ.ピイ.コミュニケーションズ、マジセミ株式会社を完全子会社化しM&A戦略を積極化
- 配当は当期100.0円から翌期予想50.0円へ半減
- 2027年3月期予想:売上収益92億円(前期比+10.7%)、営業利益20億円(同+13.9%)、当期利益13億80百万円(同+15.8%)

