人手不足倒産とは?人手不足による倒産が増加している
人手不足倒産とは、求人難や従業員の退職、人件費高騰などを背景に、必要な人材を確保できず事業継続が困難になって倒産することです。例えば、人員不足により受注に対応できない、退職によって業務が回らない、人件費の上昇に売上が追いつかないといったケースが該当します。
近年は、人手不足が単なる採用課題にとどまらず、企業の売上や資金繰りにも影響を及ぼしています。株式会社東京商工リサーチの調査によると、2026年5月の「人手不足」倒産は37件となり、5月としては2013年の調査開始以降で最多を更新しました。人件費高騰や従業員の退職が、中小企業の業績や資金繰りを圧迫しているとされています。
特に中小企業では、限られた人数で事業を運営しているケースが多く、一部の従業員の退職や採用難が経営に大きな影響を与えることがあります。人手不足への対応が遅れると、受注機会の損失やサービス品質の低下、事業縮小、廃業・倒産につながる可能性があるため、早めの対策が重要です。
参考:2026年5月の「人手不足」倒産 5月最多の37件 「人件費高騰」が2.4倍増、「従業員退職」も増加 TSRデータインサイト|東京商工リサーチ
求人難や従業員退職が倒産につながる理由
求人難が続くと、企業は必要な人材を確保できません。人員不足により売上が伸び悩む一方で、採用費や人件費は増加します。
また、既存従業員が退職すると、業務の引き継ぎや新たな採用・教育にコストがかかります。人材の穴を埋められないまま業務が滞れば、取引先や顧客への対応にも支障が出ます。
このように、人手不足は売上減少とコスト増加を同時に招く可能性があります。その結果、資金繰りが悪化し、倒産リスクが高まるのです。
中小企業ほど人手不足の影響を受けやすい
中小企業は、大企業と比べて採用力や賃上げ余力に限りがあります。求人を出しても応募が集まりにくく、人材確保に苦戦するケースも少なくありません。
また、特定の従業員に業務が集中している場合、その人材が退職すると事業運営に大きな支障が出ます。経営者自身が営業、現場管理、経理などを兼務している企業では、経営者の高齢化や体調不良も大きなリスクになります。人手不足への対応が遅れると、事業縮小や廃業、倒産につながる可能性があります。
後継者不在も事業継続の課題になる
人手不足とあわせて、後継者不在も中小企業にとって大きな課題です。経営者が高齢化しても、親族や社内に後継者がいない場合、黒字であっても事業を続けられないことがあります。
人手不足により現場を任せられる人材がいない、経営を引き継げる人材が育っていないといった状況では、事業継続の選択肢が限られます。そのため、採用や定着率向上だけでなく、事業承継やM&Aを含めた中長期的な対策を検討することが重要です。
人手不足倒産につながる5つの前兆
人手不足倒産を防ぐには、リスクが高まり始めた段階で早めに対策することが重要です。採用難や退職の増加、現場の疲弊など、以下の前兆が複数見られる場合は、事業継続に向けた対策を検討しましょう。
- ●求人を出しても応募がほとんど集まらない
- ●主力社員やベテラン社員の退職が続いている
- ●残業時間が増え、現場の疲弊が見え始めている
- ●受注を断る・納期を延ばすなどの機会損失が増えている
- ●経営者や役員が現場に入らないと事業が回らない
求人を出しても応募がほとんど集まらない
慢性的に求人を出しているにもかかわらず応募が少ない場合、採用市場で自社が選ばれていない可能性があります。給与水準や勤務条件、仕事内容、採用ページ、求人票の訴求内容などを見直しましょう。
応募が集まらない状態が続くと欠員を補充できず、既存社員に業務負荷が集中します。その結果、さらなる離職を招くリスクが高まるため注意が必要です。
主力社員やベテラン社員の退職が続いている
主力社員やベテラン社員の退職は、業務運営に大きな影響を及ぼします。特に、顧客対応や現場管理、技術指導などを担う人材が抜けると、売上やサービス品質にも直結します。
退職が続く背景には、賃金への不満や評価制度への不信感、長時間労働、将来性への不安などがあるかもしれません。個人都合と捉えず、組織課題として原因を把握することが重要です。
残業時間が増え、現場の疲弊が見え始めている
欠員が埋まらないまま業務量を維持しようとすると、残された社員の残業時間が増加します。長時間労働が常態化すると、心身の不調やモチベーション低下につながり、離職リスクがさらに高まります。
現場の疲弊は、顧客対応の品質低下やミスの増加にもつながります。社員の努力に頼り続けるだけでは、持続的な事業運営は困難です。
受注を断る・納期を延ばすなどの機会損失が増えている
人手不足により、受注を断る、営業時間を短縮する、納期を延ばすといった対応が増えている場合は、すでに売上機会を失っている状態です。
一時的な対応で済めばよいものの、機会損失が常態化すると、顧客離れや取引縮小につながります。売上が伸びない一方で固定費や人件費は発生し続けるため、資金繰りにも悪影響を及ぼします。
経営者や役員が現場に入らないと事業が回らない
経営者や役員が現場業務に入らないと事業が回らない状態は、組織として非常に危険です。経営判断や資金繰り、営業戦略、採用活動に使うべき時間が現場対応に奪われ、抜本的な対策が後回しになります。
また、経営者の体調不良や引退がそのまま事業停止につながる可能性もあります。後継者不在や管理職不足が重なっている場合は、早めに外部支援や事業承継を検討することが重要です。
人手不足に企業が取るべき主な対策
人手不足への対策は、採用活動の強化だけではありません。既存従業員の定着率向上や業務効率化、外部リソースの活用、M&A・事業承継など、複数の選択肢を組み合わせることが大切です。
採用活動を強化する
まず検討したいのは、採用活動の見直しです。求人票の改善や採用サイトの整備、求人媒体の活用、採用代行サービスの利用などにより、応募者との接点を増やせます。
ただし、採用競争が激しいなかでは、求人を出すだけでは十分ではありません。自社で働く魅力やキャリア形成のしやすさ、働き方の柔軟性などをわかりやすく伝える必要があります。
既存従業員の定着率を高める
人材を新たに採用するだけでなく、既存従業員の離職を防ぐことも重要です。定着率を高めるには、評価制度や賃金制度の見直し、労働環境の改善、教育体制の整備などが求められます。
従業員が不満を抱えたまま働き続けると、突然の退職につながる可能性があります。定期的な面談やサーベイを通じて、現場の課題を早めに把握しましょう。
業務効率化・省人化を進める
人手不足を根本的に解消するには、少ない人数でも業務を回せる体制を整える必要があります。ITツールやシステムを導入し、手作業や属人化した業務を削減することで、生産性向上が見込めます。
例えば、勤怠管理や会計、受発注、在庫管理、顧客管理などの業務をシステム化すれば、担当者の負担を軽減できます。業務を標準化することで、退職や異動が発生した場合でも引き継ぎしやすくなるでしょう。
外部リソースを活用する
すべての業務を社内で対応するのが難しい場合は、アウトソーシングやBPOの活用も有効です。経理や人事、総務、カスタマーサポート、営業支援などを外部に委託することで、社内人材を重要業務に集中させられます。
特に、専門知識が必要な業務や定型作業は、外部サービスを活用したほうが効率的な場合があります。自社で抱えるべき業務と外部に任せる業務を整理することが大切です。
M&A・事業承継を検討する
採用強化や業務効率化だけでは事業継続が難しい場合、M&Aや事業承継も選択肢の一つです。M&Aにより、人材や顧客基盤、ノウハウを持つ企業と統合できれば、事業の維持・拡大につながる可能性があります。また、後継者がいない企業でも、第三者承継によって事業を残せるケースもあります。
人手不足が深刻化してからでは、選択肢が限られかねません。早い段階で事業の将来性や承継の可能性を整理し、必要に応じて専門家へ相談しましょう。
採用だけでは人手不足倒産を防げないケースもある
採用活動や定着率向上は重要ですが、人材確保に時間がかかる場合や、経営者の高齢化・後継者不在が重なっている場合は、短期的な採用施策だけでは事業継続が難しいこともあります。
特に中小企業では、経営者や一部の従業員に業務が集中しているケースも多く、退職や体調不良をきっかけに事業運営が立ち行かなくなる可能性があります。こうした場合は、M&Aや第三者承継を含めて、事業を残すための選択肢を早めに検討することが大切です。
以下の記事では、事業承継コンサルタントの選び方からおすすめのコンサルティング会社まで、事業承継を成功に導くための情報をわかりやすくまとめています。あわせて参考にしてください。
人手不足対策としてM&A・事業承継が注目される理由
M&Aや事業承継は、単に会社を売買するための手段ではありません。人手不足や後継者不在に悩む企業にとって、事業を残し、従業員や取引先を守るための選択肢にもなります。
後継者不在でも事業を残せる可能性がある
親族や社内に後継者がいない場合でも、第三者への事業承継によって会社や事業を残せる可能性があります。廃業を選ぶ前に、外部の企業や経営者に引き継ぐ道を検討することで、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる場合があります。
特に、一定の顧客基盤や技術、地域での信頼を持つ企業は、買い手企業にとって魅力的な存在になり得ます。
人材やノウハウを引き継げる
M&Aでは、設備や顧客だけでなく、従業員や業務ノウハウも引き継がれる場合があります。買い手企業にとっては、人材確保や事業拡大の手段になるでしょう。
一方、売り手企業にとっても、自社だけでは採用や事業継続が難しい場合に、より大きな経営基盤を持つ企業へ引き継ぐことで、事業を継続しやすくなります。
廃業・倒産以外の選択肢を検討できる
人手不足や後継者不在が深刻化すると、経営者は廃業や事業縮小を考えざるを得ない場合があります。しかし、早めにM&Aや事業承継を検討すれば、廃業・倒産以外の選択肢を残せる可能性があります。
事業の価値や引き継ぎ先の候補は、自社だけでは判断しにくいものです。専門家に相談することで、現状を整理しながら適切な方向性を検討できます。
専門家に相談することで適切な進め方を判断しやすい
M&Aや事業承継には、企業価値の算定や候補先の選定、条件交渉、契約手続きなど専門的な対応が必要です。自社だけで進めると、相手先探しや条件調整でつまずく可能性があります。
M&A・事業承継コンサルに相談すれば、自社の課題や目的に応じて、どのような進め方が適しているかを検討しやすくなります。人手不足や後継者不在に悩む企業は、早めに相談して選択肢を把握しておくとよいでしょう。
人手不足倒産に関するよくある質問
ここでは、人手不足倒産の意味や増加の背景、企業が取るべき対策について、よくある質問を紹介します。
Q1:人手不足倒産とは何ですか?
人手不足倒産とは、求人難や従業員の退職、人件費高騰などを背景に、必要な人材を確保できず事業継続が困難になって倒産することです。人員不足によって受注に対応できない、業務が滞る、人件費の増加に売上が追いつかないといったケースが該当します。
Q2:人手不足倒産が増えている理由は何ですか?
少子高齢化による労働人口の減少、採用競争の激化、賃上げによる人件費高騰、従業員の退職などが主な要因です。特に中小企業では、採用力や賃上げ余力に限りがあり、人材不足が売上減少や資金繰り悪化につながりやすい傾向があります。
Q3:人手不足倒産の前兆には何がありますか?
求人を出しても応募が集まらない、既存従業員の残業が増えている、受注や依頼を断る機会が増えている、採用費や人件費が資金繰りを圧迫している、といった状態は注意が必要です。また、経営者や一部従業員に業務が集中している場合も、退職や体調不良をきっかけに事業継続が難しくなる可能性があります。
Q4:人手不足倒産を防ぐには何から始めるべきですか?
まずは、人手不足が発生している業務や部門を洗い出し、売上・利益・資金繰りにどの程度影響しているかを整理しましょう。そのうえで、採用活動の見直し、従業員の定着率向上、業務効率化、外部委託など、自社に合う対策を検討することが重要です。
Q5:人手不足対策としてM&Aや事業承継は有効ですか?
採用や業務効率化だけでは事業継続が難しい場合、M&Aや事業承継は有効な選択肢になります。後継者がいない企業でも、第三者承継によって事業を残せる可能性があります。また、買い手企業の経営基盤や人材、ノウハウを活用することで、従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすくなるでしょう。
まとめ
人手不足倒産は、求人難や従業員退職、人件費高騰などにより、必要な人材を確保できず事業継続が困難になる状態です。特に中小企業では、限られた人員で業務を回しているケースが多く、主力社員の退職や採用難が売上減少、機会損失、資金繰り悪化につながる可能性があります。
倒産を防ぐには、採用活動の見直しだけでなく、既存従業員の定着率向上や業務効率化、省人化、外部リソースの活用などを組み合わせて進めることが重要です。また、後継者不在や人材不足により自社単独での事業継続が難しい場合は、M&A・事業承継も有効な選択肢になります。早い段階で自社の課題を整理し、必要に応じて専門家に相談しましょう。


